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『女性のためのリーダーシップ術』裏話
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時として、見守る勇気

2015.02.05猪俣恭子

『女性のためのリーダーシップ術』の
「人の健やかな成長、その陰にモデルあり」では、
銀行に勤めていたときの後輩、Wさんが登場します。
そこでは、彼女の華麗なる成長と変化を書きました。
きっかけは、Wさんが「私もこんな人になりたい!」と、
憧れのモデルを見つけたことにありました。
本の中ではあっさりとしか触れていませんが、
実はそこに至るまで、3年もの時間がかかりました。
あれからもう20年。
振り返るたびに、
「人を育てる」うえで大切にしたいことを
温かい気持ちとともに思い起こします。

さて、本にも書いたとおりですが、
新入行員のWさんは、まあ大変なことだらけでした。

仕事中に「ふわぁ~」とあくびをする(我慢せいっ!)、
目の前の電話が鳴っても受話器をとらない(てきぱきせぃ!)、
「これでいいんですか?」「これってどうするんですか?」と、
いちいち確認しながら仕事をするので、(営業店だったら怒鳴られるわ!)、
本来その日のうちに終わる予定のものが終わらない。
…と、毎日がそんな有り様でした。

当時、私は26歳。
先輩たちは、Wさんについて事あるごとに相談しあいますが、
「そろそろ独り立ちできないとね…。」と、でるのはため息ばかり。
かたや上司は、「他部署への異動を考えたほうがいいだろうか」と
頭を悩まし、私は私でWさんを「この職場に合わない。ダメな人」と、
かなり冷やかに見ていました。
もちろんそれはWさんも感じ知るところで、
私に声をかけられると、「びくっ」としていましたし、
「福田さんは、まじめすぎて怖い人」と思っている“ふし”も感じとれました。

そんなWさんでしたが、入行して半年も経つと、
昼休みなどの休憩時間に、
ぽつりぽつりと自分のことを語るようになりました。

  「実は母親があまり丈夫じゃないんです。
   夕飯の支度は、私がしているんです。
   帰りにスーパーで、買い物するのがすごく面倒です」
  「洗濯機を回すのが夜になるので、
   近所の迷惑にならないかと、気を遣っちゃうんです」
  「母親は、機嫌が悪いと八つ当たりしてくるんです。
   でも、じっと黙って耐えるしかなくて。
   感情を逆なでしないように、母親の顔色を見ながらなので、
   ほんとうに疲れます」
  「ストレスがたまって、コーヒーをたくさん飲んじゃうんです」
また、大学時代に仲が良かった友人ともこじれてしまって、
気になってしかたがない、ということも。

聞いて、驚きました。
まさかそんな事情があったとは…!
新人というのは、急激な環境の変化のまっただ中にあります。
私自身、新入行員の頃を振り返ると、
緊張し通しの職場から解放されて自宅に帰れば、
泥のように寝ていました。
家の手伝いなどできるはずもありません。
本来、身体や心を休める場が「家」のはずなのに、
Wさんにとっての「家」は、職場以上に気を遣う「場所」だったのです。

そう思ったときに、彼女に対して、
「なんでこんな態度なの?!」と苛ついていた気持ちが
すぅーっと軽くなりました。
まるで霧が晴れたような、視界が広がった思いでした。
「そういう事情があるんじゃ、職場でこういう態度になっても当然。
 だから、仕事に集中できないんだな」
と、妙に納得したのでした。

その後、先輩たちと相談し、
「ああしなさい、こうしなさい」と細かく指導するよりも
「今は様子を見守ろう」ということになりました。
もちろんミスなど注意すべき点は伝えましたが、
「彼女を見守ったからこそ、見えたこと」を意識して伝えるようにしました。
例えば、
  字がきれいなので、読み間違えがなくて助かるよ
  すらっとしていて姿勢もいいから、マナー講師にぴったりだね
  こちらのほうを見てちゃんと聞いてくれるから、安心して話ができるよ
  手伝ってくれてありがとう。おかげで早く終わった
など。
霧が晴れて視界がひろがると、
それまで気がつかなかったWさんの事実が目に映るようになることに
気付きました。

さて、それからどうなったでしょうか。

Wさんのお母さんも少しずつ体調が回復し、
気になっていた大学時代の友人関係も、
時が経つにつれ自然に解決されました。
仕事については、やっていれば慣れるわけで、
Wさん一人で完結できる仕事も増えていきました。
Wさんは、もともと素直で気遣いができましたから、
他部署の先輩や上司からとても可愛がられました。
講師の仕事も、Wさんにできそうなものを一つ、
また一つ任せるようにしました。
できることが増えれば、
成長したい意欲も自ずと高くなります。
自信もついてきたのでしょう。
Wさんから「これをやっておきましょうか」と、
私たちに声をかける回数も多くなってきました。

そんな矢先に、本に書いたことが起きたわけです。

しかも、Wさんと私との関係もかなり変わりました。
例えるなら、職場では戦友。
そして職場を離れれば、親友のような。
「こんな研修を創りたい」と私がビジョンを語れば、
彼女は瞳を輝かせ、うんうんと深く頷きながら、
興味深々に耳を傾けてくれました。
「福田さん(私の旧姓です)だったら、きっとできると思います」
の響きに、勇気がわく思いでした。
上司から手厳しいことを言われれば、
「福田さん、大丈夫ですか。次長のああいう言い方はないと思います。
 よく我慢して聞いていますよ。」
と、励ましてくれました。
私が事務作業で手一杯になり、研修の準備がままならないときには、
「これは私がやります。福田さんは研修の準備をしてください」
と、そっと手を貸してくれました。

Wさんとのことから、私が学んだこと。

一つは、人は「変わる」可能性を多く秘めている、ということ。
だから、今、目に映るその人の「行動」だけで、
相手を「こういう人だ」と決めつけないこと。
何せ相手について知っていることは、ごく一部でしかないのですから。

そしてもう一つ。
相手との関係も「変わる」可能性がある、ということ。
Wさんとは、最初の頃はあんなにぎすぎすしていたにも関わらず、
戦友、親友までの間柄になりました。
もちろんWさんの努力もありますが、
相手との関係がこじれたとしても、
「絶対大丈夫、またよくなる」と信じられるようになったのは、
Wさんという存在があったからこそです。

人を育てる立場になると、
相手の「思い通りにならない」行動に、
どうしても目がいきがちです。
私たちが真剣になればなるほど、
早く結果をだしたいと焦れば焦るほど、
そうなります。
でも、そういう時は相手に近寄りすぎて、
見えなくなっていることがたくさんあります。
それ故に余計にイライラしてしまう、
そんな悪循環を起こしてしまっています。
だからこそ、自分がそんな状態に陥っている時は、
そのことに早く気づいて、その状況から少し離れてみましょう。
少し離れて、相手を見守ってみましょう。

そうできる時間が増えれば増えるほど、
相手はあなたのことをこう捉えるようになります。
「厳しいけれど、懐の深い人」と。
そう思える人が側にいて、ようやく人は、
「今の自分、なんかまずいんじゃない? 変わったほうがいいかな。
 いや、変わろう」
そう本気になって行動を起こすようになります。

とはいえ、今の私が26歳の頃の自分にアドバイスをするならば、
きっとこう伝えるでしょう。
「あなたがWさんのことを、あれこれ一生懸命考える気持ちはわかる。
 けれども、肝心のWさんはどう思っているんだろう?
 どうしたいと思っているだろう?
 どうなりたいと思っているんだろう?
 そんなWさんのビジョンをお互いに共有したうえで、
 これからのことに取りくんだほうがいいんじゃない?
 今のあなたは、Wさんの気持ちをなおざりにしているように見えるよ」
と。

こうして振り返ってみると、
過去の体験に「今に活きるヒント」は多く潜んでいるようです。
「人を育てる」うえで、こだわりにしていること、大切にしていること。
あなたの場合は、いかがですか?
あなたと今まで縁があった人との記憶に、
きっと、あなたなりの答えがあることと思います。

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